Gut-Liver Axis とは


動物の消化管は、生命維持のために必要不可欠な栄養素を摂取し、不要なものはこれを選択的に排除するという複雑かつ巧妙な仕事を全うするための仕掛け、すなわち「内と外とを分けるバリアー機構」を構築しています。特に、感染の危険や異物の侵入に直接さらされている消化管粘膜には、マクロファージや樹状細胞をはじめとする多様な免疫細胞群が恒常的に存在しています。

しかし、粘膜層に形成されるバリアー機構は不完全であり、不消化な蛋白質や細菌・ウイルスなどが、栄養成分とともに粘膜バリアーを超えて常時組織内に侵入しています。その場合、筋層に存在するマクロファージからなる二次バリアーが対応することになります。さらに、ここをも通過した異物は血流に入り門脈を経由して肝臓にたどり着く。最後の砦となる肝臓の類洞血管内には多数のクッパー細胞(肝マクロファージ)が存在して独自の免疫システムを構築しており、このシステムによって血液は浄化され、最終的に全身に循環するのです。

この様に、外界と内界の境に位置する消化管と肝臓は連携して生体防御に関わると考えられるようになり、その関係は「腸肝軸」(Gut - Liver Axis)と呼ばれています(Solga & Diehl: Hepatology, 2004)。ただしこの言葉は、我が国では未だ一般化していません。

(余談: 腸と肝臓は同じ消化器に分類され、消化器科として臨床講座が設置されています。しかし、これら2つの分野の関係は意外と粗で、あまり連携が取られていないのだそうです、、、、、、。)






 

 

 

 

 

 

 




        この研究の特徴 : 独創性と意義

 
本研究の特色・独創性は;
1) 腸肝軸(Gut-Liver Axis)という概念をわが国で始めて体系的に取り上げこれを解明しようとすること、
2) 消化管バリアー機能の根幹を成すこれまでの免疫学視点を免疫細胞の周囲に位置する圧倒的多数の間葉系細胞(特に筋系細胞)に向けること、
3) ES細胞から作成する人工腸管系を利用して複雑系のモデル化をはかることの、3点にあります。

予想される結果ならびに意義としては;
1)難治性消化器疾患の新規治療法の開発に繋がる知見が得られること、
2)産業動物の栄養管理という応用面への展開が期待できること、の2点が上げられます。

近年,患者数が右肩上がりで増加する炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)、機能性胃腸症、食物アレルギー、O157感染症 などの疾病に対する方策は急がれています。肝疾患に関しても、ウイルス性肝炎(肝硬変から肝癌へと移行)、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎(NASH)など、現代人が肝臓に抱える疾患は重要です。

また、動物生産の現場では慢性的に推移する各種の消化管感染症や下痢症が大きな経済的損失をもたらしています。

この様に、新しい切り口で問題解決に取り組もうとする点が、本研究の大きな特徴です。




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